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振幅?位相ノイズによる確率共鳴-逆確率共鳴の転移現象の制御

更新日:2023.10.11

振幅?位相ノイズによる確率共鳴-逆確率共鳴の転移現象の制御


本学大学院情報工学研究院 物理情報工学研究系の許宗焄教授が研究代表者を務める非平衡散逸系の研究グループは、ノイズのポジティブ効果として知られている確率共鳴現象*1を液晶の電気対流系*2を用いて調査しました。数値計算と実験調査から確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象を自由に発生させたり両共鳴現象を転移させたりする手法を発見しました。この手法は適切にカラー化した振幅と位相ノイズを絶妙に配合する方式で、バイオテクノロジー、画像処理技術、センサ―工学などの多くの関連分野に応用が期待されます。


ポイント

  • 確率共鳴と逆確率共鳴を発生させ、両共鳴現象の転移を制御する
  • カラーノイズ*3の効果を実証する
  • 振幅ノイズと位相ノイズの絶妙な配合がカギとなる

通常、ノイズといえば不要な信号であり、その発生原因と除去方法の研究が求められます。電子機器などの誤作動をなくしたい、ノイズのない快適な環境で暮らしたいというのが我ら人間の願いであるからです。しかし、ノイズはそのネガティブなイメージばかりではありません。例えば、1/fノイズは扇風機の風を自然の風のゆらぎに近い風へと変えるところに応用されています。また、普通は検知できない微弱な信号に適切なノイズを加えることによって、その微弱信号を検出する確率共鳴手法は広く知られています。

これまで物理、生物、情報、脳科学などの分野で確率共鳴現象(Stochastic Resonance, SR)と逆確率共鳴現象(Inverse Stochastic Resonance, ISR)が発見され応用分野も多岐にわたっています。しかしながら、一つのシステムでSRとISRを自由に発生させたり、両共鳴現象を転移させたりすることはできませんでした。その理由は通常の振幅型ホワイトノイズのみを使用していたからです。そこで、本研究では、振幅と位相の両ノイズをカラー化し適切に配合する手法を用いて、SRとISRの調査を行いました。調査で用いた液晶の電気対流現象はある電圧(Vc)以上で対流が発生します。その交流電界に振幅と位相ノイズを乗せると、Vcは大きくなったり小さくなったりします。



図(a)は振幅ノイズ強度VNを変えながらVcの変化を示したグラフであり、その実験曲線は上から順番に位相ノイズ強度?Nを強めながら測定した結果です。最大値を示すカーブがISRに相当する振る舞いであり、図(b3)が対応する電気対流の様子を表しています。すなわち、ある電圧条件に発生した電気対流(図中の縞模様)は、振幅ノイズ強度VNを上げると消えたり、さらに上げると再び現れたりする、不思議な現象が実験で確認できます。さらに、図(b2)は位相ノイズ強度?Nを上げると電気対流が現れるが、さらに上げると消えるというSRを示しています。これらSRとISRを起こすノイズは、位相ノイズ強度?Nを上げると電気対流が徐々に消えていく図(b1)に示すような直感的なノイズのイメージと全く異なります。さらに、図(a)は、最大値を示すカーブISRから最小値を示すカーブSRへの転移も示しています。これはSRとISRの研究において世界で初めて示された成果であり、今後、関連する様々な分野においても応用が期待されます。

このような発見に至った研究手法においてカギとなるのは、振幅?位相ノイズを適切にカラー化し配合することです。本研究では、その配合によって、図(a)以外にも様々な閾値電圧Vcの振る舞いについて数値計算を用いて明らかにしました。

なお、この研究成果は、2023年10月7日(土)午前1時(日本時間)に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Springer Nature社)」に掲載されました。


用語解説


*1確率共鳴現象:非線形システムにおいて、外部の確率的なノイズが存在する条件下で、システムの性能や感度が最適になる現象を指します。具体的には、確率的なノイズがシステムに追加されると、システムの出力が増幅され、信号検出や情報伝達などのタスクに対する性能が向上することがあります。
*2電気対流系:液晶層内の電場が十分に強い場合、クーロン力が液晶の粘弾性力に打ち勝ち系内に不安定性が引き起こされ、異方性流体(液晶)の運動が誘発される現象を示すシステムです。
*3カラーノイズ(Colored noise):通常のホワイトノイズは、全ての周波数成分が均等に分布しているランダムな信号であるのに対し、カラーノイズは特定の周波数帯域でエネルギーが強化または減衰されたノイズを指します。本研究ではLow-Pass Filterで制御したカラーノイズを使用しています。


【論文の詳細情報】


論文タイトル “Control of stochastic and inverse stochastic resonances in a liquid-crystal electroconvection system using amplitude and phase noises”
著者 Jong-Hoon Huh, Masato Shiomi, Naoto Miyagawa
雑誌名 Scientific Reports (Springer Nature社)
DOI https://doi.org/10.1038/s41598-023-44043-4

※本研究はJSPS科研費JP18K03464, JP22K03470の助成を受けたものです。


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【研究内容に関するお問い合わせ】
 九州工業大学 大学院情報工学研究院 物理情報工学研究系 教授 許宗焄
 TEL: 0948-29-7897
 E-mail: huh*phys.kyutech.ac.jp

【報道に関するお問い合わせ】
 九州工業大学 総務課広報係
 TEL: 093-884-3007
 E-mail: pr-kouhou*jimu.kyutech.ac.jp

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