柔軟なカーボンナノチューブスポンジを活用したスマートAIセンサの開発
― CNT-PDMSナノ複合体を用いたインセンサコンピューティングに成功 ―
九州工業大学大学院生命体工学研究科人間知能システム工学専攻 田中啓文教授と生命体工学研究科博士後期課程生命体工学専攻 2年 君塚紘喜さんらの研究チームは、カーボンナノチューブ/ポリジメチルシロキサン(CNT-PDMS)ナノ複合体を活用し、スポンジのように柔らかく高感度な圧力センサを作製しました。このセンサをロボットハンドに搭載し、9つの異なる物体を高精度に識別することに成功しました。これにより、コンピュータが演算することなく、センサ自身がAI演算するという「インセンサコンピューティング」が可能となりました。本研究成果は3月16日(日)、独科学オープンアクセス誌アドバンスト?インテリジェント?システムズ誌(ワイリー社)に正式版に掲載されました。(オンライン版は2024年11月掲載)
ポイント
- 高感度触覚センサの開発:CNT-PDMSナノ複合体を活用し、柔軟で高精度な圧力検出が可能。
- リアルタイム触覚データ処理:非線形応答を利用し、即時の触覚データ解析を実現。
- インセンサコンピューティングの応用:センサ自体が情報を処理し、高精度な物体認識を実現。
- 幅広い応用可能性:ロボットやウェアラブルデバイスなど、多様な分野での利用が期待される。
■ 研究の背景と意義
同研究室ではナノ材料を活用した人工知能(AI)デバイスの開発を行っています。特に「リザバーコンピューティング」と呼ばれるAIモデルを応用し、材料のランダムネットワークを演算素子として利用する「インマテリアル演算デバイス」の実用化を目指しています。これにより、従来の電子回路を必要としない、材料そのものが情報処理を担う技術の開発を進めています。
■ 今回の研究の特徴
今回の研究では、圧力を加えると抵抗値が変化するCNT-PDMSナノ複合体のスポンジ構造を圧力センサとして活かすことで、センサの柔軟性と高感度を両立しました。圧力を印加した際のスポンジ内部のCNTランダムネットワークの交点が生み出す電気的非線形応答を活用し、リザバーコンピューティングを適用することで、センサ自体が情報処理する「インセンサコンピューティング」を実現しました。これにより、触覚データを即時に解析し、高精度な物体認識が可能になります。
■ 今後の展望
この研究成果により、触覚センサ技術はIoTや生活支援ロボット、医療?福祉機器など幅広い分野での利用が期待されます。特に、インセンサコンピューティング技術を活用した次世代触覚センサの開発が加速し、従来技術と比較して圧倒的に高い圧電変換情報の増幅と演算性能を実現する可能性があります。また、ロボットやウェアラブルデバイスへの実装を進めることで、超低消費電力かつ高機能な触覚センサの普及が加速されると予想されます。この技術革新により、エネルギー効率の高いスマート社会の実現に向けた一歩となるでしょう。
図1:CNT-PDMSナノ複合体センサを用いて把持物体認識を行う様子。インセンサコンピューティングによりロボットがコップの認識に成功した例
■ 発表雑誌
雑誌名 | Advanced Intelligent Systems (ドイツ科学雑誌、ワイリー社)7巻, 2400640 (2025) |
論文タイトル | Haptic In-Sensor Computing Device Based on CNT/PDMS Nanocomposite Physical Reservoir |
著 者 | Kouki Kimizuka, Saman Azhari, Shoshi Tokuno, Ahmet Karacali, Yuki Usami, Shuhei Ikemoto, Hakaru Tamukoh, and Hirofumi Tanaka |
D O I | 10.1002/aisy.202400640 |
本研究はJST CREST、JST ACT-X、JST ALCA-Next、JSPS科研費(JPMJCR21B5, JPMJAN23F3, JPMJAX22K4)、旭興産グループ研究支援プログラムの支援を受け遂行されたものです。

注目度の高さから同誌のバックカバーにも掲載されました
【研究内容に関するお問い合わせ先】
国立大学法人九州工業大学 大学院生命体工学研究科
人間知能システム工学専攻 教授 田中啓文
TEL: 050-1738-0167
E-mail: tanaka*brain.kyutech.ac.jp
【報道に関するお問い合わせ先】
国立大学法人 九州工業大学
経営戦略室(広報?ブランディング担当)
E-mail: pr-kouhou*jimu.kyutech.ac.jp
TEL:093-884-3007
(メールは*を@に変えてお送りください)